愛を教えて
怒りに狂っていた卓巳も、一瞬で理性を取り戻す。


「すまない! 申し訳ない。こんなつもりじゃなかったんだ。本当にすまない。万里子、許してくれ万里子……万里子?」


万里子の耳に、卓巳の声が届いている様子はない。


「……たすけて。たすけて、いや、こわい。たすけて……おとうさま、おかあさま……たすけて」

「万里子、万里子どうした? 僕だ、万里子っ!?」


万里子の目は卓巳を映してはいなかった。
しかも、意識が混濁している。

そんな彼女の両肩を掴み、卓巳は激しく揺さぶった。


「万里子! 万里子、しっかりするんだ!」


万里子はハッとして卓巳の顔を見つめる。

しだいに、焦点が合ってきた瞳から、一気に大粒の涙が吹き出した。


「ごめんなさい、ごめんなさい。でも、わざとじゃないの。ずっと、あなたのことを見ないようにしていたのに。誘うつもりじゃなかったの、笑って挨拶しただけなのに……ごめんなさい」


万里子は泣きながら卓巳に謝った。
そして、卓巳には意味不明な言葉を口走り続ける。


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