愛を教えて
そして雪音たちの目に映ったのは、万里子がナイフを喉に突き立てようとした瞬間――。


ナイフは皮膚に食い込み、ペルシャ織の絨毯に血が滴り落ちる。

だがそれは、万里子の血ではなかった。

太一郎はとっさに、万里子の手にしたナイフを素手で掴んでいた。


「二度と……こんな真似はしない! 二度とあんたには触れない! だから……やめてくれ。頼むから、やめてくれっ!」


万里子は目を見開き、ナイフの柄から手を離す。そのまま、崩れ落ちるように床に倒れた。 


「万里子様、大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

「奥様をお部屋へ! 誰か医者を……安西先生を呼びなさい! 太一郎様、手を開かないでください」


浮嶋の指示を無視して、太一郎は手を動かした。

血に濡れたナイフは音もなく滑り落ちる。

彼は噴き出す血と共に、傷つく痛みを知ったのだった。 


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