愛を教えて
「暴力はダメです。あなたに何かあったら、私はどうしたらいいんですか?」


卓巳は何も言い返せない。

最初からそうだった。万里子は卓巳の痛いところばかり突いてくる。


太一郎がどんな悪さをしても、卓巳はまともに叱ったことなどない。

正直に言えば、女性を妊娠させて捨てたと聞いても、自分には関係ないとすら思っていた。


卓巳にとって、太一郎の存在自体がコンプレックスを刺激する。

万里子と会うまで、女性を見ても抱きたいとすら思えなかった。卓巳の男としての価値はゼロなのだ。

女性を抱き、子供を作ることのできる太一郎に歪んだ嫉妬を覚えていた。 


万里子さえ無事ならそれでいい。

他の誰かが傷ついても、太一郎を追い出す理由になる。それは、卓巳の浅ましい了見だった。


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