愛を教えて
「昨夜の件は失礼いたしました。少々お酒が入っていて、度を過ぎていたかもしれません。以後、注意します。――浮島、竹川にはあとで私から話しておこう」


卓巳はまず皐月に謝罪する。

浮島は相変わらず無表情で、「かしこまりました」とだけ答え、後ろに下がった。


しかし、この新婚カップルの行き過ぎた愛情表現を、皐月は不道徳とは思わなかったらしい。


「浮島は堅苦しいこと。少々構いませんよ、卓巳さん。孝司さんにとっても、よい手本になるでしょう。この家には誰も、手本となるべき夫婦がおりませんでしたから。わたくしも含めて、ですけれど」


皐月の言葉に、尚子と和子の姉妹は視線を逸らせた。

尚子と敦の仲はお世辞にも円満とは言えず、和子には二度の離婚歴がある。


「夫婦のあるべき姿を、愛し合う素晴らしさを、孝司さんには学んでいって欲しいと思います。静香さんも遅くはないですよ。それに、太一郎さんも……ね」


皐月は血の繋がらぬ亡き夫の孫たちに視線を注ぐ。

そして、久しくそこに座る姿を見ていない、太一郎の空席にも目をやった。


皐月の言葉を受け、万里子は満面の笑顔で隣の卓巳を見上げた。

同時に、卓巳も万里子のほうを見る。


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