愛を教えて
そのベッドは、皐月がお気に入りのマットレスを介護用に改造したものだ。

卓巳の指示だった。ベッドだけでなく、一階フロア全体をバリアフリーに改築してくれた。そして、すべてのトイレに車椅子用の個室を導入したのである。

卓巳は何ごとにも過ぎる点があるのは否めないが、不器用なことは欠点ではない。

父親の卓哉に似て、繊細で気持ちを表現するのが下手なだけだ。卓哉は幼いころ、嫌なことがあったり叱られたりすると、決まって熱を出して吐き戻した。

皐月自身も同じ体質だ。卓巳のそんな姿を見たことはないが、おそらく同じだろう。


このところ、卓巳は徐々に男性としての自信を持ち始めている。

例の巨大ベッドの購入がいい証拠ではなかろうか。
夫婦生活の中身まではわからない。だが、同じベッドで眠るようになったということは、ふたりの仲に変化があった、ということだ。

結婚当初、ふたりはどこかギクシャクしていた。

卓巳と秘書の噂を聞いたときは、夫婦の先行きを案じたものだが、ようやく足並みが揃い始めた。

そう思った矢先、太一郎が騒動を起こし……。

だが、雨降って地固まるとは、まさにこのことだろう。


クリスマス・イブの夜は、これで何もかも上手くいくと思った。

それなのに……。


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