愛を教えて
裸の女は万里子ではない。

卓巳にはすぐにわかった。


だがその中で、明らかに万里子だとわかる写真が二枚。

そのひとつはベッドの上で太一郎に組み伏せられている。何か事情があるはずだ。それさえ聞けば、すぐに胸のつかえはなくなる。

そう思い、何度も万里子に連絡を取るが……。


万里子と話せぬまま、卓巳は急いで自宅に戻った。

尚子に掴まったのはそのときだ。卓巳は尚子から最悪の言葉を聞かされ――それでも必死で否定した。

そして、卓巳が万里子を探しに行こうとしたとき、


『あらあら、逃げ出してなんのご相談かしら?』


そんな尚子の挑発に卓巳は動けず、宗に万里子を探しに行かせたのだ。

万里子の様子から、宗ともすれ違ったらしい。


だが、今となってはどうでもいい。


万里子は認めた。


しかも彼女は、太一郎が知るはずがない、とは言わなかった。同じ失言であっても、意味は大きく違ってくる。


(なぜだ? なぜ万里子は僕にも話してない四年前の事件を、太一郎に話したんだ!?)


むかつくような嫉妬がこみ上げてきて、胸を焦がす。このときの卓巳には、万里子をなじる尚子の声など耳を素通りしている。

卓巳が吐き気を覚えたその瞬間、冷たい指が彼の手に触れた。その指を条件反射のように振り払う。


そして、呆然と見上げる万里子から、卓巳は目を背けた。


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