愛を教えて
頭から水を浴びただけの姿だ。窓から射し込む朝の光が、水滴に反射して眩しい光を放っている。

卓巳は腰にバスタオルを巻き、上半身は裸だった。こうして正面から見るのは初めてかもしれない。筋肉質ではないが細身でもなく、その絶妙なバランスにしばらく見惚れていた。


「どうした?」

「あ……いえ、今まで眠っておられたのに」

「今にもドアを蹴破りそうな勢いだったじゃないか。いやでも目が覚めるさ」


卓巳はもう仕事の顔に戻っていた。

ほんの数時間前まで、万里子の身体を余すところなく堪能していた男の影はどこにもない。

万里子の中に切なさが浮かび上がる。


「よほどのことがあったらしいな」

「す、すみません。早口の英語がよくわからなくて。すぐに社長に取り次いで欲しい、と」

「わかった。スーツを用意してくれ」

「……はい……あ」


万里子はクローゼットのほうに足を向けた。だが、先ほどから感じていた違和感が膝まで達し、万里子はバスローブの裾から見えた光景に身体を震わせた。


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