愛を教えて
男手ひとつで育ててくれた、父にだけは心配をかけたくない、そう思ってきた。

卓巳や宗が驚くほど、万里子は感覚が鋭い。それもこれも、言い方は悪いが『大人の顔色を窺うクセ』がついているせいだ。

父に万里子の犯した罪を知られたくない。

そして、父の会社の役に立ちたい。


だが、契約結婚に同意した理由はそれだけじゃなかった。

卓巳の置かれた状況も気の毒に思い、彼の力になりたいと思った。


彼は万里子に対する侮辱を訂正し、謝罪してくれたが……あれが本心でなかったら? 契約書をたてに、渋江邸のときみたいな態度を取られたら?


ところが、デートで会う卓巳は、彼女が想像していた男性とはまるで違った。


万里子に対する悪意は全く感じない。

それどころか、不器用な優しさを感じ、万里子は戸惑うばかりだ。


(私たちの結婚は形式だけなんだから。同情と尊敬以外の感情は、絶対に持ってはダメよ)


もし、卓巳に“恋”してしまったら、辛いことになるのは目に見えている。


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