愛を教えて
わずか二週間。そんな短い間で二度もこれを外させた。自分がいかに無能で最悪な夫か、思い知らされた気分だ。


彼に従ってくれ。君のためだ。僕の言うとおりにするんだ――卓巳は万里子にそう言った。

ジェームズ・サエキがライカーと通じていたなら、『フランスに』ではなく『ライカーの元に』と目的地が掏り替えられたはずだ。

万里子はどんな思いで卓巳の言葉を聞いただろう。ライカーに売られた、と思ったかもしれない。「愛している」も「君だけだ」もすべて嘘だと思ったはずだ。


(もう……おしまいだ)


万里子がいなければ、仕事で勝っても意味がない。卓巳の人生において、守るものはなくなった。

いや違う……守れなかった。

卓巳は指輪を握り締め、ストンと床に膝をつく。そのまま、倒れ込むようにテーブルに突っ伏した。


(なぜだ!? なぜ、運命はこんなにも邪魔をする。そんなに僕が憎いのか? 僕が何を……幸福になってはいけない、どんな罪を犯したと言うんだ)


彼の心は、抗い難い敵に蹴散らされ、無残にも粉々に打ち砕かれた。そして、崩れ落ちそうになる寸前――。


小さな振動と共に携帯が鳴る。それは、メールの着信音だった。


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