愛を教えて
ふいに、万里子の頭の中でライカーの声が響いた。


『君はすべてが美しい』


そして、肌をなぞる指の感触を思い出し……万里子は身震いする。


転げるようにベッドから下り、服を探すが見当たらない。そして目についたバスルームの文字。万里子はその中に飛び込んだ。


ライカーを受け入れた記憶はない。身体にその証もなかった。だが、万里子はその行為において避妊具を使った経験がない。もし使うことで、痛みもなく、痕跡も残らないのであれば……。


(私は……卓巳さんを裏切ってしまったの?)


取り返しのつかないことをしてしまった。

万里子は急いでシャワーのコックを捻る。大理石のバスルームは、デザインが日本のバスタブに近い。だが、のんびりお湯を張る余裕はなかった。一刻も早く、すべてを洗い流さなければ。逼迫した思いが万里子の中を駆け巡る。


隅に置かれたボディソープが空になるまで、一心不乱に洗った。ソープがなくなると、今度はボディスポンジに力を入れる。しっとりと繊細な皮膚がやがて真っ赤になり、裂けて血が滲み出ても擦ることをやめない。

万里子は何かにとり憑かれたように、身体を洗い続けた。


< 732 / 927 >

この作品をシェア

pagetop