愛を教えて
「どうして? どうして私があなたを引っ叩くの?」

「どうって……今夜は何もしない約束だろう。なのに、君の胸が押し付けられて、目の前に白いうなじがある。これは拷問だ」
「じゃあ言わなくていいから……キスして」


万里子からキスをねだられ、断ることのできる卓巳ではない。

「愛してる。愛してるよ、万里子。ああっ……どうしてくれるんだ! 本当にコイツは、君には節操なしだ」


卓巳は目覚めて高ぶった愛の証を、万里子の腰に押し付ける。


「ソファはダメ。ちゃんとベッドまで運んでね。それと、帰国前にナショナル・ギャラリーに連れて行って。ソフィに聞いたの、ジェイクそっくりのキリストを見てから帰りましょう」

「万里子、それはOKに聞こえるよ」

「卓巳さんの馬鹿……これ以上言わせないで」


少し口を尖らせ、万里子は微熱を孕んだ声で呟いた。そして彼女から、もう一度強く唇を押し付けられ……。


(我ながら、なんて単純なんだ)



卓巳の中から数分前の憂いは嘘のように消えている。

万里子を抱き上げ寝室に飛び込み、ふたりはハネムーン最後の夜、心ゆくまで愛を確かめ合った。





―最終章につづく―


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