愛を教えて
「父さんは許さん! あの尚子という女は、お前を金目当てだと言ったんだぞ。あんな家に大事な娘をやれるものか。それに、太一郎という男はとんでもない獣というじゃないかっ!?」

「お嬢様、お戻りくださいませ。使用人たちにまで、事件のことが知れ渡っていると聞きました。卓巳様も酷うございます。お嬢様をお守りくださると、あんなに約束されましたのにっ!」


卓巳を押しのけ、隆太郎と忍は万里子に詰め寄った。 


ふたりの心配は当然だ。万里子が傷つき、再び死を考えるのではないかと恐れているに違いない。

だが、今の万里子は“失ったものを嘆くだけの”四年前の彼女ではなく、卓巳と出会う前の“すべてを諦めた”彼女とも違った。


万里子は四年間、ヒビ割れた心を癒やしながら生きてきた。少しでも動こうとすると亀裂が広がりそうで、恐ろしくて動けなかった。

だが、卓巳と出会い、愛を知ることで様々な思いが万里子に押し寄せる。

激しい感情に心は揺さぶられ、ヒビ割れた心はライカーから受けた衝撃に、一度は見事に砕け散った。

それでも、万里子の中に残った真実――それは“愛”だった。

卓巳を思う気持ちは何より強い。

父や亡き母、母親同然の忍に対する思いも。それに、藤原家の人たちともわかり合いたい。おばあ様には少しでも長生きして欲しい。

愛を諦めたくないと、万里子の心が叫ぶのだ。


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