愛を教えて
正門の外には桜並木が広がっている。この時期、枝にはまだ小さな蕾しか見えない。だが入学式のころには満開だ。

四年前、絶望に近い悲しみを抱え、万里子は大学の門をくぐった。

その年は開花が早く、遠目にはピンク色の絨毯が素晴らしく幻想的に見えたものだ。それが近寄って目を凝らすと、桜の花びらは踏みにじられ泥だらけだった。

そんな桜が我が身と重なり、涙したことを万里子は思い出していた。


一年目は時間さえあれば聖堂に通い、神に祈った。神は万里子に答えを示してくれたのかどうか……今となってはよくわからない。

ただ、自分を苛めるように積極的に奉仕活動に参加したことは確かだ。

とくに、親に捨てられた子供たちと触れ合ったとき、身勝手な親を責める指導者の言葉に、万里子は息もできないほど苦しくなった。


万里子が贖罪の道を歩み始めたころ、卓巳と出会った。

桜並木の葉が色を変え、春とは違った落ち葉の絨毯が敷かれていたこの場所に、卓巳は佇んでいた。

黒いBMWにもたれかかり、万里子を見つけると数十秒睨み続けた。そして、万里子に向かって真っ直ぐに近づいてきて――。

卓巳の声は意外に固く、素っ気ないものであったことだけ、万里子もよく覚えている。


< 910 / 927 >

この作品をシェア

pagetop