愛を教えて
皐月は意識を取り戻してからひと月あまり、目を見張るような回復ぶりだ。

暖かくなれば退院できそうだと聞き、卓巳と万里子もホッとしていた。


そんな皐月は卓巳の顔を見る度に、小さな男の子の話をする。それが卓巳には面白くないらしい。


「おばあ様、お言葉ですが、まだ決まってはいませんよ。僕は娘が産まれると信じています」

「まあ、往生際の悪い方ね。死にかけたわたくしが言うのだから、間違いありませんよ」


ちなみに卓巳のもらってきたお守りの中に、三重の子安観音寺の物もあった。そこには一年中花をつけるという桜『不断桜《ふだんざくら》』がある。いただいた護符の中には桜の葉が一枚入っており、葉が裏だと男の子、表だと女の子が生まれるという。

万里子が『試しに開けてみましょうか?』と言うのだが、卓巳は駄目だと言って譲らない。

皐月や千代子は『きっとこっそり開けて見たのですよ』そう言って笑う。


不機嫌そうな卓巳に、万里子はこっそり耳打ちした。


「私、女の子が産まれるまで頑張りますから。卓巳さんも……ね」


卓巳の顔が一瞬で笑顔に変わった。


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