ケイヤク結婚
「でも、やっぱり……それが一番いいと思うんです」

「桜木さんの気持ちはどうなるんですか?」

「それは……」

 桜木様が肩を寄せると、しゅんと小さくなった。

「さ。綾乃さん、戻りましょう」と大輝さんが私の肩を抱いて、「それとも帰りますか?」と続けた。

「大丈夫です。パーティに戻れますから」

 私たちは、桜木様に背を向けて歩き出した。

「何をお願いされたんですか?」

 私は大輝さんの腕の中で、口を開く。

 大輝さんの口元が緩むと、首を横に振った。

「何でもありませんよ」

「でもさっき、お願いされたって」

「その話は忘れましょう。俺も、新垣と何かあったのかは聞きませんから。たとえ、首筋にキスマークがあっても」

「え?」と私は首元に手をやった。

 そんなに強く噛まれたような気はしなかったけど。

 恐る恐る大輝さんに視線を合わせると、大輝さんが苦笑した。

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