君のための嘘
お金がなくては、安いホテルに泊まって仕事を見つけるのは無理だろう。


「こっちに知り合いでもいるんですか?さっきの人たちは?」


「……」


ブラウンの瞳に見つめられて、夏帆は彼のネクタイへと視線を逸らした。


「何か事情があるみたいですね わかりました 聞かないので、楽にしてください」


楽にして、と言われてもこの人の隣だと落ち着かない……。


視線をラルフから泳がせた時、バックミラーに映るタクシーの運転手と目が合ってしまい気まずくなる。


きっと会話はすべて聞こえているに違いない。


「運転手さん、六本木の――マンションまでお願いします」


ラルフは自分たちの会話に興味津々の様子を見せるタクシーの運転手に、行先を告げると足を組み替えた。ラルフの高い身長では、後部座席は脚がぶつかり窮屈そうだ。


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