君のための嘘
夏帆の目はラルフの形の良い唇に行ってしまう。


「ラルフ……」


キスして欲しいと願う。けれど、言葉が出てこない。


ラルフの見つめるブラウンの瞳はいつになく真剣で……。


ラルフもキスしたい?


そう思った時、ラルフは微笑んだ。


「足は大丈夫? 行こうか」


「えっ?」


ラルフは夏帆の身体に回していた手を離して歩き始めた。


夏帆は肩透かしされたみたいな気分だった。


今、キスしようとしたよね?


数歩前を歩くラルフの背中を見つめて、夏帆は困惑していた。


やっぱり私に魅力が無いんだ……。


美由紀さんと別れる為に結婚したんだもんね……。


今のラルフの行動は夏帆をかなり落ち込ませる。


電車でのキスは私の妄想だったのかもしれない……。


< 247 / 521 >

この作品をシェア

pagetop