君のための嘘
捨てられたと思って、今まで生きてきて申し訳なかった気持ちと、自分は愛されて生まれたんだと、嬉しい気持ちが複雑に入りまじり、院長に別れの挨拶をしている時も、ハイヤーの後部座席に座った時も、まだ夏帆は泣いていた。


「辛かったね……何も考えないで少し眠るといい」


ラルフは夏帆の頭を肩にもたせ掛ける。


「私……日本に来て泣き虫になっちゃった……」


ポツリ呟く夏帆の髪をゆっくりラルフは撫でる。


出来ることなら……


もう泣かないで欲しい……。


いや、泣かせたくない。


ラルフの心の中も複雑に揺れていた。



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