君のための嘘
元気づけようと、一緒にケーキを食べてくれた気持ちはわからなくもないが、いろいろと考えることが多すぎて、何もかもが嫌になっていた。


そして、このままずっと彼と一緒にいたら、どんどん好きになって離れたくなくなる……。そんな思いもあった。


彼女がいるのに……。


そう思っていても、ラルフの優しさにどんどん惹かれていく夏帆だった。


彼に惹かれる気持ちは、困難な状況の時に助けられたせいもあるのかもしれない。


「行こう 家で聞くよ」


ラルフは夏帆の手首を掴むと、自宅マンションに向かって歩き始めた。


部屋に着くまで、ラルフは夏帆の手首を離さなかった。と言っても、強く掴んでいるわけではない。


足取りが重い夏帆に付き合って、歩調はゆっくりだった。


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