君のための嘘
「お腹空いただろう?今日は何を食べたい気分かな?」


「……なんでもいい」


「食べたいものを言って、僕は何でもいいよ」


夏帆は困った。仕事から帰って来たラルフをもう一度外に連れ出すのも気が引けるし、材料を買ってきて料理をしてもらうことになってしまうのも気が引ける。


「どうしたの?」


黙り込んでしまった夏帆に気づいたラルフは、着替えに行く足を止めて見る。


「……私はなんでも」


「そう……じゃあ、焼肉でも食べに行こうか この近くに美味しい所があるんだ」


焼肉……小学生の頃、近所の飲食店から漂ってくる焼肉の匂いにお腹を空かせたものだ。


「はい」


子供の頃の記憶がよみがえり、引きつった笑顔を浮かべ、夏帆は頷いた。

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