マリア

徳二郎

 男の名前は“徳二郎”といった。名字は言わず、ただの“徳二郎”だと。徳二郎はあまり喋るのが苦手なようだった。自分のことは語らず、優しい眼差しでマリアを見つめ、細く長い指で顔を撫でる。その心地良さに、また身体が反応する。どうしてこんなにも求めるのか。昨日初めて出会ったことなど嘘のようだ。マリアは徳二郎にその気持ちを話してみた。すると、徳二郎もマリアを初めて見たときからそう感じていたという。
「もしそれが本当なら、きっと徳二郎は運命の人ね」
 そうマリアが言うと、徳二郎は髪を優しく撫で、キスをする。徳二郎の手が下へと向かう。
「だめだよ、シャワー浴びないと風邪引いちゃう」
 マリアが止めると、徳二郎の顔が離れ、どうして?といった顔でキョトンとした。その表情がまたマリアの心をくすぐる。
「そんな顔しないで。シャワー、一緒に浴びる?」
 徳二郎は少しだけ考えた風に間をあけ、小さく頷く。マリアはかけていたタオルケットを剥いで立ち上がると、徳二郎は座ったまま「クシュン」とくしゃみをした。それを見てくすりとマリアが笑い、手を差し出す。徳二郎は鼻をすすりながらマリアの手を取り、照れくさそうに笑った。
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