リアル



二股を掛けられているのかもしれない。


そう思ったが生野に問い質すことは出来なかった。


それには携帯電話を勝手に見たことを告げなければならないからだ。


だがその誤解はすぐに解けた。


それは生野の母親の言葉だった。


生野の母親の美佐子は五年前の事故で右足を悪くしていた。


京華は自ら美佐子の世話をしに生野の自宅に出入りしていた。


美佐子もそれを喜び、京華のことを気に入っていた。


そんなある日、美佐子が生野に漏らしているのを偶然耳にしたのだ。


その話の内容は生野の以前の恋人を心配するものだった。


まさか、京華が近くにいるとは思わないで話していたのだろう。


そこに出てきた名前が「薫」というものだった。


二股ではなかったと安堵すると同時に小さな嫉妬が芽生えた。


生野はとうの昔に別れた恋人とまだ連絡を取り合う仲なのだ。


例えそこに恋愛感情が存在しないとしても、それは心穏やかではいられないことだった。


だが、京華は何も言わないことを選んだ。


それは生野に離れていって欲しくなかったからだ。



.
< 121 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop