リアル




結局、小田は殺人未遂を犯したにも関わらず不起訴となった。


理由は簡単だ。


小田が罪に問われれば、相手の罪も露見してしまうから。


相手には二度と近付かないという誓約の下、小田は釈放された。


その翌々日、薫の携帯電話に知らない番号から電話がかかってきたのだ。


薫が誰だろう、と思いながら出ると相手は小田だと名乗った。


その瞬間、薫の背筋は凍り付いた。


何の心当たりがあるわけではない。


ただ、漠然とよくない予感がしたのだ。


小田は薫に近所にあるビルの屋上に来るよう指図した。


薫は断ることもせずに、一目散にそこへと向かった。


心臓はどくどくと鳴り、嫌な汗が首筋を撫でた。


手足は震え、上手く走れなかった。


この予感が外れればいい。


薫は走りながらそう思い続けた。



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