リアル
「今夜、予定でもあります?」
薫は訊きながら小首を傾げた。
「あ、いえ、そういうわけではないんですけど」
「だったら決まり。ね?」
すかさず手を取る薫に、美緒は戸惑いを隠せないようだ。
だが、すぐに拒否しても無駄だと悟ったらしく、顔を綻ばせた。
幼さが覗くその顔は端整だが何処か地味だ。
「美緒ちゃん」
美緒の手を引いて薫が歩き出した時、美緒を呼ぶ男の声がした。
「英治さん」
美緒は足を止めて、声の主名を呼んだ。
薫も美緒につられるようにそちらに顔を向けている。
この距離はちょうどいい。
隆は様子を眺めながら思った。
ぴったりと近くにいるわけではない為、様子を客観視出来るし、全体像もよく観察出来る。
薫は端からこれを狙って、隆に指示を出したのだろう。
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