リアル



「美緒さん」


薫が声を掛けると、美緒は一瞬驚いた表情を見せた後、すぐに笑顔に変わった。


隆は意識しながら、薫と微妙に距離を取る。


これは此処を訪れる前に薫に指示されたのだ。


姉弟であるなら、びたりとくっつかずに微妙に距離を開けるはずだ、と。


そして、離れ過ぎているのも可笑しい。


隆は一人っ子の為、そういった感覚はよく分からないが、言われてみればそんな気もする。


だから隆はずっと立ち位置に気を配っている。


「こんにちは」


美緒はおっとりとした笑顔で挨拶をした。


「夕飯、ご馳走するわ」


薫はいつも決して見せない笑顔を浮かべた。


「いえ、本当にいいです」


美緒は顔の前で手を振りながら言った。


爪はきちんと切られている。


むしろ深爪なくらいではないだろうか。



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