リアル




中に入ってきたのは、薫とさして年齢の変わらない男と若い男の二人組だ。


若い男を視界に入れた瞬間、何処かで見覚えがあるように思えた。


そして、すぐに答えは出た。


美緒の恋人で、確か英治という男だ。


細い目が特徴的な彼は何とも形容し難い空気を纏っている。


「今日はお一人じゃないんですね」


「たまにはね」


蒔田と呼ばれた男はこの店の常連らしく、女性店員は笑顔で話し掛けた。


薫はそれが終わるのを待ってから女性店員を呼び止めた。


「ブレンド一つ」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


店員はまた明るい笑顔を浮かべて言った。


「京華ちゃん、次こっちね」


蒔田は柔らかい声で、女性店員――京華を呼び止めた。


薫は窓の外を見る振りをしながら、二人の会話に耳を傾けた。


英治が何故か気になるのだ。


一見爽やかそうには思えるが、その実は分からない。


彼と直接会話を交わしたわけではないので断言は出来ないが、それが気のせいだとも思えないのだ。



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