リアル


いくらアパートの敷地内といえ、鍵を二重にしておかないと、いつ盗難に遇うかは分からない。


自転車の乗り捨ての場合、大概乗り捨てで発見されるが、使い物にならない状態のものも多い。


そうなってしまうと、通勤に困る。


薫はきちんと施錠されていることを確認してから、階段に足をかけた。


その時、すぐ背後に足音が迫っていることに気が付いた。


他のアパートの住人だろうか。


薫は足を止め、振り向いた。


足音が通り過ぎるまで安心は出来ない。


何せこんな時代だ。


後ろから突然刺されでもしたら堪らない。


振り向いた瞬間、そこには見覚えのある顔があった。


吊り気味の大きな瞳に、長く束ねた髪は、伸びた前髪が鬱陶しそうだ。


アパートの前には外灯があり、その姿は夜中でもよく見えた。


「昼間の……」


薫の口は意識する前に動いた。



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