リアル
薫は適当なインナーを被り、ジーンズを履き、薄手のジャケットを羽織った。
どれも暗い色合いのものだが、元々整った顔立ちをしている薫には派手になり過ぎず丁度良い。
薫は携帯電話をポッケトに突っ込み、鍵と財布だけを掴み、部屋から出た。
あいつがいればいいけど。
少しばかり祈るように思いながら、出た外は、北風が強く、薄手のジャケットを選んだことを後悔する程の寒さだ。
薫は腕を胸の前で組むことで、少しでも寒さを和らげようとした。
だが、容赦なく吹く北風は、そんな程度では防げない。
でも、上着を替えに戻るのも面倒だ。
薫はそのまま、アパートの階段を下りた。
すると、すぐに人だかりを発見することが出来た。
昼間の為か、野次馬は然程多くない。
薫はその中を掻い潜るように進んでいった。
この先には一体、何が待っているのだろう。
これは、遠い昔によく感じたものだ。
血が騒ぎ、居ても立ってもいられないような感覚。
間違いなく殺人だ。
薫は現場を見る前に、そう当たりをつけた。
この感覚は、何年経とうと変わることはない。
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