リアル




群がった野次馬達の中から、ひそひそと話し声が聞こえてくる。


薫は前進しながらも、その話に耳を傾けた。


野次馬会話は一見意味のないことのように思われがちだが、そこに何かヒントが隠されていることはよくある。


昔、薫は野次馬達の話を聞く為だけに、野次馬の群れに紛れたこともあったくらいだ。


「この間のと同じ犯人かしら」


「さあ、どうかしらね。時間も違うじゃない?」


「ああ、そうね。でも、似てない?」


時間帯が時間帯の為、耳に入ってくる殆どの声は中年の主婦のものばかりだ。


パート先でもよく、こんな感じの会話を耳にする。


だが、内容はこのように物騒なものではない。


芸能人の誰それが不倫をしている、バイトの女子高生が生意気だ、売場主任の言い方が気に入らない。


薫のパート先である「スーパーあきかわ」の主婦達はいつも、このような会話を繰り広げては怒ったり笑ったりしているのだ。


毎日大差のない会話をし、同じ仕事をしている。


だから自然と、どうでもいいことまで悪口に変えてしまうのだろう。


それとも、悪口を言うというのは、止められない女の性なのだろうか。


薫は休憩室で蔓延する会話に笑顔で相槌を打ちながらも、いつもそう思っていた。



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