リアル



「拭いたくらいじゃ塩分は残る。濡れたタオルで拭き取ったなら別だけど。それに、前髪や髪についたものは洗わなきゃ取れないしね。殺した後にそこまでする?」


しないとは言い切れないが、した可能性は低いだろう。


海水で殺したという証拠を消すなら、何より洗面台に張った海水をそのままにしたりはしない。


残したのはわざとだろう。


それなのに顔を拭いたり、髪を洗ったりするのは不自然だ。


いや、それこそわざとやった可能性はなくもない。


どちらにしても、不思議なことなのだ。


「そういうこと。でも、だからって実践する必要はないだろ」


隆は不満げな声を上げた。


たった数時間で、隆は最初の印象とは全く違う部分を見せている。


「口で言うより分かりやすいでしょ」


薫はそれだけ言い、風呂場から去った。


隆もそれについてくる。


「まあ、今ので抵抗した痕がないのも不自然だって分かったでしょ」


生野の言葉に隆は自分の掌を見た。


そこはうっすらと赤くなっている。


溺死させるまでには今の倍以上の時間がかかる。


確かに、抵抗した痕跡は何らかの形で残るだろう。



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