リアル
薫はそこで手を離した。
隆はぷは、と大きな息を吐きながら顔と身体を起こした。
余程苦しかったのか、ぜえぜえと息を吐きながらも噎せている。
「な……何すんだよっ」
隆は口元を押さえながら薫を睨んできた。
「顔はどう?」
「は? 顔が何だよ」
隆は濡れた前髪を掻き分けた。
前髪は額にべったりと張り付き、上手く取れないようだ。
「顔」
薫は冷静な表情でもう一度言った。
「顔は……濡れてる?」
隆はそこまで言ってから、目を見開いた。
ようやく薫が言いたいことに気付いたらしい。
「そういうこと。よくある溺死の殺害パターンは、今みたいに水面に顔を押し付けるもの。後は沈める、ていうのもあるけどね。ま、洗面台に海水が張られていたなら、これでしょう」
「ほい、タオル」
生野は顔と前髪を濡らした隆にタオルを差し出した。
「殺した後、拭いたのかもよ? 前髪は、発見までに乾いたとか」
隆は顔を拭きながら言った。
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