リアル




今度は母親が父親と同じ目に遭うだけなのだ。


案の定、男は母親の腹部に包丁を向けた。


母親はぶんぶんと首を振り、涙で顔をぐちゃぐちゃにしている。


そして、必死に抵抗しようと、椅子をがたがたと動かした。


だがどれも無意味に終わり、男は母親の腹部に包丁を埋めた。


そして次に首に切れ目を入れた。


一瞬にして視界が真っ赤に染まった。


それが母親の血が目に入ったからだと気付くには、かなりの時間を必要とした。


母親は一瞬で事切れ、首をだらりと垂らした。


なのに、男は母親の身体の至る所を刺した。


だが、何処を刺していたのかは覚えていないというより、見ていない。


男の首にあるタトゥーが目に入った。


ナイフを貫かれた龍。


男の首にあったタトゥーだ。


視界は真っ赤に染まっているというのに、その模様だけがはっきりと黒く見えた。


そして、記憶はまたそこで途切れるのだ。








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