リアル




次は自分か、それとも母親か。


縛られた足ががくがくと震え、手足の体温はなくなっていった。


どうしよう。


どうしよう、などと考えても無意味なのだがそれしか脳内には浮かばなかった。


逃げようにも不可能だ。


男は父親を刺すことに飽きたのか、包丁の血をカーテンで拭った。


今、誰かが表にいてくれればいいのに。


いや、無理だ。


直ぐに自分の間違いに気付いた。


この家の庭は広い為、通りから家の中の様子など見えるはずがない。


男もそれを分かっているから、カーテンを閉めきるわけでもないし、そうやってカーテンに触ったりするのだろう。


男は包丁を拭き終えると、身体の向きを変えた。


男が向いたのは母親の方だった。


一瞬安堵してしまった自分が恐ろしくなった。



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