∮ファースト・ラブ∮

麻生先輩に押し倒されている女の人があたしの存在に気がついた。


「何よあんた!?」


先輩の背中に……しがみついて、悲鳴をあげる。


その声で、麻生先輩はやっとあたしの存在に気がついたみたい。



「手鞠ちゃん、ごめんね。

ぼくと彼女、今お楽しみ中なんだ。

終わるまで待っていてくれないかなあ」




やって来たあたしのことを空気のように扱って、女の人にキスをする麻生先輩。


その間、あたしの体も……頭も……すべてが停止してしまう。



あまりにも残酷で、あまりにも苦い光景だった。








「ん。

ねぇ、久遠、このこ、なあに?」


キスを何度も繰り返されたから、呂律がうまく回らないのだろう。

女の人はゆっくりとした言葉で先輩に訊く。



『――あなたより、あたしの方が彼に気に入られているの』



そんな残酷な言葉が女の人から聞こえてくるような気がした。



「ああ、変わった娘だったから付き合ってみたんだ。


だけど……やっぱり飽きたな。


抱くなら君のような抱き心地のいい女性がいい」





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