∮ファースト・ラブ∮
「に?」
口をつぐんだあたしに、お母さんは先をうながしてくる。
でもでも、そんなの言えっこない。
「なんでもない」
あはは。
と笑って誤魔化すあたし。
お母さんもつられて笑う。
「そっか、そっか。
手鞠はあの人が好きなんだね。
告白したの?」
「したよ。
付き合ってくれるって」
うなずけば、お母さんは少し悲しそうな顔になった。
これから一ヶ月の間に真実の口づけをしなければならないからだ。
さっきのキス…………。
お母さんに見られなくてよかった。
キスしてたのがバレたら、どんなことになってたか想像はできる。
なんてったって、あたしは先輩のキスで人間になれなかったんだもん。
それは、あたしを想ってくれているキスじゃないってことだから。
このことを知ったら、とっても悲しむから…………。
だから…………お母さんに知られなくてよかった。
言えないもん。
『泡になってもいいから先輩の近くにいたかった』なんて、言えない。
ごめんね、お母さん。
ごめんね、お父さん。