受付レディは七変化。
「わぉ、すっごーーーーい!」
隣で重森が感嘆の声をあげた。
私も、目の前の光景に思わず目を見張る。
都心から電車で少し離れたところにあるその場所は、
駅前という立地にもかかわらずバカデカイ。
というか、駅と併設なのか?と思うほど 駅自体を飲み込んだ形になっている。
自動ドアの前には ショッピングモールの運営側なのかスーツを着た男性と、エレベーターガールの服を着たお姉さんが
ズラリとお辞儀をしている。
一人のお姉さんに重森と私の分の関係者チケットを渡すと、偉そうなスーツおじさんの並びに、見覚えのある顔が手を降っていた。
「やっほ」
「どうも」
ペコ、とお辞儀すると「相変わらずだっせーの」と笑われた。
「え?」
「いや、服」
・・・グレーのスウェット生地のロングスカートに若干毛玉が気になる若草色のニットは、流石にダサすぎたか。
しかし、いつものコスプレ的センスで洋服を選ぶと、派手すぎるのでしょうがない。
横には重森もいることだし・・
当の重森は、充永の思わぶりな発言に「私抜きで会ってたんですか・・!?」とワナワナ震えだしている。
・・・特にフォローの言葉も思いつかなくて、充永の前を離れ重森を置いて1Fのフロアへと足を踏み入れた。
途端、そのきらびやかさに圧倒される。
1Fは有名化粧品ブランド、ファッションアイテムが軒を連ねる。
2Fはレディースファッション、奥には映画館とアミューズメントパークが併設されている。
3Fが男性ファッションとファストファッション。併せてレストラン
4F、会議と宴会場などのフリーホール、イベントステージ
5F、VIP宿泊スペース、豪華7種の湯を使った温泉施設・・・。
フロアの隅にある案内板には、普通のショッピングモールでは考えられないようなものさえ置いてあるようだ。
っていうか、これってもはや百貨店に近いんじゃ・・・。
「もはや何から見て良いのかわからない・・」
「え?いやいや、これですよこれ」
そう言って重森が指差したのは、本日のイベントだった。
モニターに表示されたカラフルなその一面には、
【一般参加OK!衣服貸し出しあり、コスプレパレード】と書いてある。
チラシに書いてあったやつか・・・。
「めっちゃやりたくないですか!?」
「え・・・いや・・・」
「えーーーーーやりましょうよーーーーー」
「いや、そういうのは、ちょっと・・」
「ここでうんとセクシーなの着て充永さんにアピールできるチャンスなんで!」
「それ重森さんだけでしょ・・」
「一人じゃ勇気でないじゃないですかーーーー!!」
いいや、絶対あんたは一人でも着れる。普段気弱なんてキャラじゃないだろ!
「そうだよ~着てほしいな?」
含み笑いが聞こえて振り返ってみれば、そこには今回の件の主犯、充永。
「あんた・・・わざとでしょ・・・!」
「もちろん。じゃないと呼ばないでしょ?」
下請け会社の受付なんてさ、と笑う。
こ の ク ソ メ ガ ネ・・・!!!
「はい、これ 服」
「え?」
「二人は特別、ね」
そう言ってイケメンな顔でニコッとされれば、世の女子は 特別 なんてことばに酔いしれてしまうんだろう。
もれなく私の隣の女子も顔を真っ赤にして叫び出しそうだ。
・・・くそ、本性を知らないから・・・!
「この性悪眼鏡」
「なんとでも」
はい、更衣室こっちだからね~~と半ば無理やり背中を押され、やってきたのは2Fのアミューズメントパークのお隣。
ほだされてやってきたはずの更衣室に、私は目を見開いて・・・胸が高鳴るのを留められなかった。
簡易的なイベントだ、ざっくりとした更衣室だろうと思っていた。
内装が全て薄ピンクと白で統一された部屋。
キチンと作られた試着室のような個室、外にはドレッサーが並んでいる。
それも十分な数だ。
こんなしっかりした作り、どうするつもりなんだろう・・・。
そんな疑惑は頭にあれど、心臓がドキドキする。
ロココ調をイメージした白い試着室の扉を締めたときも。
スワロフスキーが縁取りに埋め込まれたドレッサーの前に座ったときも。
薄い花柄の彫りがはいった櫛やアイロンを使ったときも。
心が今までにないくらい高揚していく。
女の子のカワイイをいっぱい詰め込んだ世界。
いつの間にか、メイクブラシを持つ手は軽く弾んでいた。
ナチュラルな化粧、"別の自分"を作るためじゃなくて。
"ありのままの自分"を可愛くするために、初めて化粧道具を使う。
きっとこの空間がそうさせるんだろう。
いつもは、倉庫みたいな場所で、早く変身してここを出なきゃって気持ちが強いのに、可能であれば、いつまでもここで自分を可愛くするために向き合っていたい。
純白の生地に高級そうなレースが張られたチャイナドレスを着た時、まるで自分が普段の何倍も特別に見えたような気がした。

< 7 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop