シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
俺は思い出す。


桜を残して、俺と玲と遠坂が長浦港から走っていた時――。


――師匠、この辺り…電気がついていないのは、おかしいと思わないか?


確かに、鎌倉から走ってきた時も、辺りは暗いと思った。


――電車が止められていたのは、ボク達の移動手段を奪う為ではなく、師匠の力にさせない為だったら?


その言葉は、しっくりと胸に来る。


俺の力を、嬲るように1つまた1つと削ぎ落としていくやり方を思い返せば、玲の性格を踏まえた上で……徐々に力と自信を喪失するだろう玲をも、俺同様にいたぶる目的も兼ねているのかもしれない。


悪趣味の…脚本家は、相当俺達がお気に召さないらしい。


――ボク、氷皇のパソコンも持ってきてるんだ。


遠坂が肌身離さぬ銀色の袋。


今度は氷皇のパソコンもしまいこんだのか。


――ここ辺りの電気…ボクが回復させてみせる。


その眼差しは凛としていて、遠坂は…2ヶ月前より強くなったのだと思った。


――ボクは、師匠達のような、紫堂のお役に立てられる力はないけれど…紫堂を守る師匠に、力を供給することは出来る。


――だけど由香ちゃん…、五皇の結界外のこの場所では、多分…電力を操ることは…。


――師匠。氷皇のパソコンのデータを転送している時、そこいらは"もしも"の話として、打ち合わせ済みだったんだ。


遠坂の目が三日月型となっていて、俺は…知らぬ処で遠坂の謀(はかりごと)が動いていたことを知る。


俺は――遠坂にまで、守られていたというのか。


玲は端麗な顔を…不敵なものに変え。


――OK由香ちゃん。大体の所は判った。ありがとう。


嬉しそうに微笑すると、遠坂は照れたような顔をして頬を指先で掻く。


――だけど…あっちに接続するとなると、時間がかかると思う。僕の力で…。

――ダメダメ!!! 師匠の力は紫堂の為に温存するんだ!!!


そして――


――ボクのアニオタ生命にかけて、時間内に必ず回復させて見せる!!!


遠坂の"命"と"アニオタ"は、どちらが重いのだろうか。

そんなことを考えてしまったけれど。


俺達は、遠坂の策を保険にして、走ってきたんだ。

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