シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
俺の為だとはいえ、芹霞は俺よりこいつを選んだ。
この男は、俺から芹霞を奪った。
そう…ひねくれて解釈すれば、久涅の姿を見るだけでも忌々しく。
その後ろに見え隠れする芹霞を見れば、まるで自分のものだと背に庇っているかのようにも思えるその構図に、全身の血が逆流してしまいそうな程の苛立ちに襲われる。
そんな俺をかろうじて押し留めていたのは、手首の赤い布。
煮え滾る俺の血に巻きつく血色の絆。
「櫂、もう少しッッッ!!! 早く、早く…お父さんの所に!!!!
そんな男構わないで、勝負に勝ってッッッ!!!」
一呼吸を置いて俺は…冷静さを取り戻す。
そうだ。
俺は何の為に芹霞を置き去りにした?
今此処で芹霞を求めれば…
全てが水の泡になってしまう。
「久涅――…。
お前に…構っている暇は無い」
そう。
それが正しい答え。
芹霞が親指を突き出して笑っているのが見えた。
俺は久涅の横を抜けようと…足を進めた。
目の前には最終地点。
時間は…3分弱。
視界の端で、久涅は――
不快な顔つきとなり…僅かに黒い瞳を細めていた。
「ほう、俺を"無いもの"として…無視する気か、弟よ」
その口調に滲むのは…怒り。
俺と久涅が横一文字に並ぶ。
「随分と…見くびられたものだ。
無視出来るというのなら…してみろ。
俺は今、腹いっぱいで…動けないからな」
くつくつくつくつ。
そして――
「うまいな、あの小娘は」
下卑た笑いを見せた久涅に、思わず足を止めた。