シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
その時、突如ぐずっぐずっという鼻を啜るような音が聞こえてきて。
「ぐすっ…やだなあ、由香ちゃんそんなに泣かないでよ…」
つられて泣いてしまったあたしに、
「泣きそうだけど、必死に我慢してるぞ、ボク。
ワンワン泣いているのはあっち」
指差した向こうには――
「櫂、玲~ッッ!!!
これからもよろしくな!!!」
派手に泣いて、両手を広げて駆け寄る橙色のワンコ。
煌も…内心ははらはらしていたんだろう。
こんな場所に、追いかけてくるくらいなんだから。
そんな煌は、2人に慰められている。
いや…弄られているのか?
桜ちゃんが居れば、叱り飛ばしただろうか。
それとも、環の中に入っていただろうか。
桜ちゃんは今――。
――此処をもたもたしてたら、抜け出たとしても0時までにタイムアウトになる。
「は!!! 時間!!!」
あたし声に、一同がこちらを見た。
「ねえ…早く此処…抜け出さなきゃ。櫂の時間、間に合わなくなる!!」
「…僕"エディター"を安心させられなかった…」
俯く玲くんの悔しそうな声。
「今からでも…」
「させないぞ、玲」
「だけど…」
「させない。もう二度と、お前を犠牲にしない」
きっぱりと櫂が言い放つと、玲くんは黙り込んで唇を噛んだ。
「しゃあねえ、脅すか。恐怖ポイントは判ったんだし、こいつに傅(かしず)く要素は俺達にはねえし。出口云々は…来た道戻ればいいしな」
煌が険阻な顔つきをした。
「それしかないな。もたもたしていると、この世界の狂気が…また増えて、逃げ出せなくなる」
そう櫂が言った時だった。
『あたしが…うまくやって…やる。
お前…達は戻ってこ…い…』
紫茉ちゃんの声が聞こえたのは。