雪中恋心
結局彼は、最後まで別れることを了承しなかった。
それでも私は、一方的に別れたと宣言し、連絡を拒否した。



性欲の塊のような彼。

大嫌い、大嫌い。


「……大嫌い。」


一人ぼっちの部屋で、そう呟きながら溢れる涙がとまらなかった。




安心感。


やっと解放されたのだと。




しかしそれだけではなく、後悔の念も混じっていた。


私は、人前で恋人らしいことをするのが大の苦手だった。
そのため、好きになればなるほど、人前では彼を常に拒否していた。

手を繋ぐことすらなかなかできなかった。


そんな私の態度に、不安になるんだと、いつか彼が言っていた。
その頃から急激に行為の回数が増えていった。



原因は、少なからず私にあるのだ。




思えば、彼はとても優しかった。
私の望むことは全て実現しようと努力した。


元々、不良と呼ばれる「悪い子」だった彼と、
秩序を守り、言われたことは全て守る「いい子」だった私。


そんな私にあわせて、彼は「いい子」になろうと努力していた。
日常生活の言動だけではなく、成績も上がり、難しい資格も取得し、志望校にも合格した。


お前のおかげだ、と彼は嬉しそうに抱きしめてくれたけれど、それは彼自身の努力の賜物だ。

それでも、私に感謝する。
そんな人だった。






そう。


そうなのだ。


彼は、良い人だったのだ。



優しくて。


常に私を一番に考えてくれていて。






「………っ」



それなのに、どうして、

私は彼を受け入れられなかったのだろう。

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