茜色の太陽
そう、わたしが消えれば良かった。
けれど、そうしなかったのは。
けれど、そうできなかったのは。

きっと、この現世という世界にわたしという魄が他ならぬ執着をしている証であり。
きっと、来る未来という世界にわたしという魂が他ならぬ期待をしている証であり。

広がる赤い血の池の中で、わたしはただただ泣いていました。
人間の血を求めるのは本能なのだ―――――――と。
わたしは己に流れる赤い鬼の血を呪いました。
自身の手が人間の"赤"で染まるたび、わたしは"赤"い鬼であることを自覚していくのです。
そうしてまた、わたしは独りになっていくのでした。

いずれかの種の―――――温もりを求めるために引き裂いたことを否定はしません。
けれども、其処に罪の意識などはなく、ただただわたしという存在を証明するために池を広げました。
独りとなったことが、果たして自主的であったのか。
それとも、排他的であったのか。
今ではもう思い出すこともできません。

こんなわたしに温もりをくだすったのは。
遥か昔、我を救ってくださったお方――――――。
わたしは、あの方のためなら死ぬことも厭いませんでした。

でも、我は現在―イマ―生きている。

石の下に封じられてから、幾年が過ぎたか――――。
そう、人間の話だと100年になるらしい。

運命と呼ぶには滑稽な――――――。
然らば、なんと形容するが相応か。

それは、イマのわたしが知りうることではありません。
目を開ければ一面の白。
其処に広がる赤い花。

嗚呼――――、わたしはまた赤い本能に呼び醒まされた。
共に封じられしあのお方の魄の匂いはわたしには届きませんでした。

そう、独りでもへっちゃら。
わたしは、ずっと独りだった。

今までも、これからも――――――――。

100年という年月を眠ってもなお、わたしは泣いているのでした。
それは、自分を嘆いているのでしょうか?
それとも、抱くことも叶わぬ夢を魅ているせいでしょうか?

いずれにせよ、わたしはまた、温もりを求めるのでしょう――――。
いずれにせよ、わたしはまた、己を嘆くのでしょう――――――。

今のわたしが未来など知るはずもありません。
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