胸の音‐大好きな人へ‐
店を後にして、春佳の自宅に向かう。
早く会いたかったはずなのに、いざこうなると背中が震えてしまう。
しばらく続いた沈黙がこわかった。
別れを切り出されたらどうしよう、って。
「へへへ」という笑い声を合図に、春佳は話しはじめた。
「まさか圭が店まで来るなんて思わなかった」
「同中の奴がパンフくれた」
春佳は明らかに動揺したけど、それをグッとこらえたような顔つきで、
「……そっか。パチンコ屋のバイトしてるなんて~って、ビックリした?」
「うん、まあ……。
パチンコ好きだった?」
「やったことないよ。あの仕事は、パチンコ知らない人でも出来るの」
春佳は今回やることになったバイトの説明をする。
パチンコをする客に、ジュースやコーヒー、サンドイッチとかを売る《ワゴンレディー》っていう種類の仕事らしい。
「そんなバイトあるんだ。今まで知らなかった。
ってことは、アクセサリーショップのバイト辞めたの?」
「うん、辞めた」
「他の店員もいい人ばかりって言ってたのに、もったいなかったな」
再び、二人の間は静まる。
横に伸びる車道。
車の走行音にかき消されないよう、耳の神経を集中させ春佳の言葉を待つ。