愛花~桜~
 
桜ノ宮に一人の妃が入ったことは直ぐに知れ渡った。
陛下の宮に正妃の宮を除いて一番近くにある聖蘭ノ宮に住むこの国で王の側近をしまた政治を取り仕切っているウェーバル大臣の娘のルートは只の村人風情が何故この格式高い後宮にと顔をしかめる。
今、玉座にいる王は常に優しげな笑みを浮かべて物腰も穏やかなものであるが威厳があり、政治のことを良く理解する頭を持っていたがやはり年若い。
そんな王の為と集められた自分を含めた四人の妃達は皆高位の貴族又は豪商の娘であるというのに。
ルートは持っていた扇を強く握り締め、今日はまだ訪れない王がやって来るのを待っていた。

「この後宮がどれ程格式高い場所であるのか知らしめなくてはなりませんね」

ふっと口端を上げて作り出すのは冷笑。
傍に控えている侍女達は皆、彼女の家から着いてきた者達で彼女の命令とあれば何だってする。
ルートは目を細めて侍女達を見据えて薄く微笑んだ。
美しく整った顔がそれをゾッとするほどの冷たさを含ませる。

「明日、全ての妃をこの聖蘭に。田舎娘を歓迎致しましょう」

クスッと笑みを溢して告げた声音は楽しげで敵対心を持っていた。
明日、現れた田舎娘にこの後宮で生活する厳しさを教えてやろうではないか。
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