黒の本と白の本
 黒の本を持った女はそのたびに、胸にナイフを突き刺して心臓を止めていきました。
 そして、その時に繰り返される言葉は同じ。
「なぜ、アタシについてくるの?」
「あなたが好きだから」
 その言葉を聞くたびに、黒の本の女はナイフで心臓を貫きます。
 100人目に黒の本を持った女の前に現れたのは、もう何百年も前にこの世界から消えた、白の本を持つ双子の妹にそっくりな少女でした。
 黒の本を持った女は、いつものように心臓を止めようとナイフを振りかざしますが、どうしても少女の胸をつくことができませんでした。
「アタシはアンタを殺せない。お願いだから、どこかにいって頂戴」
 黒の本の女は言います。
 しかし、少女は首を縦には振りません。
 黒の本の女は何度も繰り返し聞いてきた言葉を少女にもおくりました。
「どうしてアタシに付きまとうの? 何が目的なの?」
「あなたが大好きなの」
 少女はそう笑顔で答えました。
「アタシが好きだとどうして言えるの? そんな言葉は信じられないわ」
 そう言うと、少女は寂しそうに俯きました。
 そして、黒の本の女に言いました。
「じゃあ、わたしを信じられないと言うなら、そのナイフで心臓を突いていいよ。わたしは、あなたが幸せになれればそれでいいの。あなたがわたしのこの胸にナイフを収める事で安心できるのならそうすればいいわ」
「それができないから、消えて頂戴っていってるのよ」
「どうしてできないの?」
 少女の言葉に、黒の本の女は一度口を閉じ、そして、ゆっくりとこう言いました。
「双子の妹に似ているアンタをアタシは殺せない。」
「もし白の本を使えば、今の苦しみが消えるといっても? その本の場所を私が知っているといっても?」
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