Vrai Amour ~秋緒の場合~


「あの時、私はピアノの練習をしていたの。だから直接は会ってないわ」


「じゃあ、どうして・・・」


「褒めてくれたでしょう?」


「あ?」




何の話だかさっぱりわからない。

少しだけ迫るように俺に顔を近づけてくる千夏に俺は精一杯の抵抗をする。



「覚えてねーし」


「・・・褒めてくれたのよ。ピアノ、上手ですねって」



それが?と思ってしまう。

きっとその場の雰囲気やノリで答えたに違いない。




「でも、うちでは誰も褒めてくれなかったの。習い事は全部当たり前のことだから」




目の前にある千夏の顔が満面の笑みに変わる。

一瞬ドキっとしてしまった。

あんなお見合い写真なんかより、さっきまでの作り笑いよりずっと可愛いじゃないか。
< 11 / 47 >

この作品をシェア

pagetop