△~triangle~
「どうして……そんなに悲しそうな顔をするの?」
その彼女の震える問いに、目を見開く。
「蓮はいつも笑っているけど……でも時々、泣きそうな顔をしている。私、本当は知っていた。明と蓮には触れてはいけない秘密があるって。だから私、それには気付かない振りをしていたの」
ノラは真っ直ぐに僕を見つめたままそう言うと、それからそっと僕の手に触れた。
その彼女の手の温もりに臆する様に身を強張らせると、ノラは悲しそうに笑いギュッと強く僕の手を握り締める。
「私にとって蓮は心の支えだった。どんなに辛い事があっても悲しい事があっても、蓮が居てくれたから私は乗り越えられた。だからすごく感謝してる。本当に……嬉しかった。大好きだったの」
彼女の口から紡がれるその言葉に何故か胸がズキズキと痛み、彼女の手も振りほどけないまま彼女から視線を逸らした。
「私は貴方が好き。それが今でも本当に恋とか愛って気持ちなのかは分からない。でも私は蓮が好きだよ。だから私は……」
ノラがそこまで言った……その瞬間だった。
カタっと小さく何かの物音が聞こえる。
微かに身を強張らせ、ドクンと心臓が一際大きく鼓動を打ち、それと同時に僕の心が静かに凍りついて行くのを感じた。
その音は僕にもう逃れる事の出来ない終わりの時を告げ、その事実に全てを諦めた様にクスリと吐息を漏らした。