△~triangle~
「……どうして……君なのかな」
震える声でそう呟き、僕の頬に触れる彼女の左手を……そっと握った。
僕の頬に触れた彼女の手を包み込む様に握ったまま、静かに目を閉じる。
「……君が……君じゃなかったらよかったのに」
そう呟いて笑って見せると、ノラは困惑した様に瞳を揺らした。
彼女の手を放し、ノラの瞳から流れ続ける涙をそっと指で拭うと、そのまま彼女に背を向ける。
「……さよなら、ノラ」
そう小さく呟き、走り出す。
ただ真っ直ぐに、振り返らずに。
優しい少女から逃げる様に、自分の犯した重い罪から逃れる様に……降り続ける冷たい雨の中を、行く宛てもないまま走り続ける。
……僕にはもう、分かっていた気がする。
僕がずっと望んでいたモノは……本当はもう……
そこまで考え、その考えを掻き消す様に強く瞳を閉じる。
……もう、遅い。
全てがもう……遅過ぎるのだから。
その言葉を繰り返し、微かに頬に残る優しい少女の温もりを感じたまま……冷たい空の下を走り続けた。