△~triangle~

「……ノラ」

そう小さく彼女を呼ぶと、ノラはビクリと体を強張らせ……それからゆっくりと顔を上げた。

その瞳に俺の姿が捉えられたその瞬間、ノラの涙の溢れる瞳が大きく見開かれる。

「……あ…きら」

ノラは擦れ震える声で俺の名を呼ぶと、静かに目を伏せ、俺から視線を逸らした。

「蓮には……会えたの?」

その俺の問いにノラは微かに唇を噛み締めると、それからコクンと頷いた。

その彼女の答えに、あの後、蓮とノラの間に何があったのか……何となく理解する事が出来た。

……ノラはもう知っている。

ノラの左腕を……ノラからバイオリンを奪ったあの事故の真実を。

蓮の突き付けたその真実は、酷く彼女を傷付けた事だろう。

……だって……ノラが泣いている。

円らな瞳からボロボロと涙が零れ落ち、それは雨と交じって悲しく地面へと落ちて行く。

そっと彼女の頬へと手を伸ばすと、ノラはビクリと身を竦めて、窺う様に俺を見つめた。

そのままそっと指で彼女の涙を拭うと、精一杯の笑みを浮かべて見せる。
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