△~triangle~

「でもね、私達は上手くいかなかった。彼が須藤家の跡取り息子だと言う事。それは愛さえあれば越えられる様な生易しいものじゃなかった。もしもそれを無視して彼を選べば、周りの沢山の人を巻き込んで、そして不幸になる様な……そんなモノ。でも彼は周りの誰を不幸にしても、私を選ぶと言ってくれた。だけどね私は……怖かったの。静かに堕ちて行く様なそんな想いが、とても怖くなった。だから私……彼から逃げ出したの。それが……大学四年の時」

そこまで言って彼女は口を噤むと、静かに私を見つめた。

「その後になって……気付いたの。……妊娠してるって」

その彼女の言葉に少しだけ表情を険しくする。

「さんざん悩んだ挙句に、産むって決めた。音楽を……捨ててでも。母もそして貴女の両親も大反対したわ。でもそれを押し切って私は子供を産んだ。それが……蓮」

「……先生」

苦しそうに語り続ける彼女を呼ぶと、彼女は自嘲気味に笑ってそっと髪に手を触れた。
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