リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
図書館の近くに、大きなスポーツ用品店があったことを明子が思い出したのは、昨夜見ていた旅番組で『高杉兄弟』の『あき兄』こと岡本くんが、秘湯を目指して山を登って行くなどという姿を見たからだった。


(あー、山かあ)
(この年でさ、山ガールを名乗るのは、ちょっと躊躇われるけどね)
(さすがにもう、昔みたいに登れないだろうし)
(でも、懐かしいな)


今は亡き祖父との思い出に浸りながら、元気に山を登っていく『あき兄』の姿を見ていたのだが、その懐かしさは、一晩明けても明子の胸に残っていたらしい。
もともと、この近辺は日帰りで登ってこられる山が多い。
山歩きが趣味だった祖父が、まだまだ元気一杯だったころ。
明子も、時々、祖父と一緒に山を歩いていた。
社会人になり、祖父が亡くなり、いつの間にか、明子の中にあった山への興味は薄れてしまったけれど。


(ちょっと、見てみようかな)
(いまどきの、お洒落な山の服)
(ちょいと、見るだけ、ね?)
(だって、なんか、セールとか、やっているみたいだし)


そんな気楽な気持ちで、明子はふらりと店内に足を踏み入れた。
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